地域を見守る特別な場所、漢方薬局
※以下の文章は、ウェブメディア「TSUMUGI」からの転載です。
5年前、日本の大学院への入学をきっかけに
東京へ来たわたし。
ある日、近所を散歩していて、
古風な外観の漢方薬局を見つけた時は、
「よかった!これで、病気になってもなんとかなる!」
と、心底安心しました。
その後、しばらくして風邪をひき、
その漢方薬局へと向かったのですが、
いざ店内へ入ろうとすると
なんだか入りづらい。
外から店内の様子をうかがうと、
お客さんがいないだけでなく、
店員さんもおらず、
ショーケースにずらりと並ぶ漢方薬が
なんだか近づきがたい雰囲気を放っています。
「台湾の漢方薬局とは様子が違うなあ…」
そう思ったら、なんだか入る勇気が出ず、
結局、青山にあるおしゃれな雰囲気の
漢方薬局へ行ってしまいました。
その後、無事に風邪は治ったのですが、
あの時、近所の漢方薬局で感じたことは
ずっと心に残っています。
わたしにとって、
漢方薬局と言えば台湾の漢方薬局。
そこは、病気の人だけでなく
元気な人も訪れる場所で、
ドアの無い漢方薬局もあるくらい
オープンな雰囲気なのです。
例えば、台湾の漢方薬局は、
漢方薬だけでなく、干しアワビや昆布、ナッツなどの
「南北貨(ナンベイホゥオ)」と呼ばれる
様々な乾物も販売していて、
台湾の人にとっては、
ちょっとしたスーパーのような存在。
誰でも気軽に入ることができます。
わたしがよく買うのは、干ししいたけと
黒きくらげ・白きくらげ。
量が多くて安くておいしい、
料理にとっても便利な食材です。
また、台湾の家庭では、
漢方薬の材料である生薬を使った料理、
「薬膳」をつくる習慣があります。
そのため、漢方薬局は
漢方薬を処方するだけでなく
生薬のばら売りもしていて、
スパイス屋さんのようでもあります。
ナツメを◆粒、シナモンを△グラムというように、
少量からの購入が可能です。
※薬膳初心者の為の薬膳セット、バラ買いももちろんできます。
わたしが好きな生薬は、
シナモン、ナツメ、クコ、リュウガンなど。
シナモンは、寒い冬、ホットワインに、
ナツメ、クコ、リュウガンは、薬膳スープに使います。
薬膳の風味が好きな人には、
「滷包(ルーバォ)」という、
生薬やスパイスが包まれた
台湾料理のだしパックもおすすめです。
それぞれの薬局が独自のレシピで
手づくりしているので、
薬局によって味も様々。
例えば、父が営む漢方薬局の滷包はこんな感じです。
スープや鍋に入れると
ふわりと漢方の香りが出て、
短時間でおいしい薬膳がつくれます。
こんな風に、台湾の漢方薬局は
スーパーやスパイス屋さんのような役割も担っていて、
病気じゃない人も気軽に入ることのできる場所。
そして、もちろん、病気の時にも
安心して頼れる存在です。
台湾では、漢方薬局が各地域に存在し、
その地域のかかりつけ病院の役割も
担っているのです。
そこでは、家庭内での出来事や
普段の生活の中での悩み、
体の小さな不調など、
あらゆることを漢方薬剤師に相談することができ、
漢方薬剤師は、その相談内容を受けて
漢方薬を処方します。
子供のころ、わたしは、
父が営む漢方薬局で過ごすことが
多かったのですが、いつも、
「パパのお客さん、お話が長くて
なかなか帰らないなあ」と思っていました。
お客さんがいる間、わたしは
静かにしていなければならず、
早く帰ってほしかったのです。
でも、大人になるにつれ、
お客さんが長居していた理由が
わかるようになりました。
お客さんたちは、みんな、
友達に相談をするかのように
父に悩みを相談していたのですね。
お客さんの心まで理解しているからこそ、
最適な漢方薬をおすすめできる。
台湾の漢方薬局は、
地域の人たちの健康を
心と体の両面からケアしています。
香港とシンガポールを訪れた際に見た漢方薬局は、
台湾の漢方薬局によく似ていました。
中国は訪れたことがありませんが、
中華圏の漢方薬局はみんな
似たような感じなのではと思います。
地域の人々の健康のため、
体に良い食品を販売し、
地域の人々の相談に耳を傾け、
体だけでなく、心もケアする。
大型チェーン店の登場により、
台湾の漢方薬局も消えつつありますが、
地域の人々の健康を見守る、
昔ながらの漢方薬局の良さは消えてほしくない。
そう強く思います。
DAYLILYは、若い人たちにも
漢方を取り入れてもらえるように
漢方をリデザインしているブランドですが、
この昔ながらの漢方薬局が持つ良さは
変えることなく守っていきたいし、
DAYLILYも、みなさんにとって
地域の漢方薬局のような存在になっていきたいです。